デザインの品質を上げるためには、どのような手段が有効でしょうか。組織や個人の状態に合わせて様々な観点から複合的に方法を選択し、戦略的にデザインの品質を上げることが重要です。本記事では、チームとして行うデザインの品質を上げるために、原因をフィッシュボーン図で整理し、理想のあるべき姿を実現する因果ループ図や、各ステップでとるべき具体的なアクション、品質向上ポイントなどを解説します。
会社などの組織の中でチームとしてデザインを行う場合、多くのデザイナーが同じ案件に関わることができ、個人としてデザイン業務を請け負うよりも規模の大きなプロダクトやサービスに携わることが可能となります。一方で、複数人で構成されたチーム内で役割を分担しながら進める上で、コミニュケーションや情報の受け渡しは複雑になり、品質はデザイナー個人のスキルに依存しがちです。そして、制作したデザインの品質は、そのまま会社自体の評価として判断されることとなります。
チームで行うデザインの品質が上がらない原因を具体的に考えてみましょう。よくある原因をフィッシュボーン図で整理すると、主に組織課題と個人課題に分類できます。チームで行うデザインの品質が上がらない原因は、これらの複数の要因が絡み合っていることが多くあります。
フィッシュボーン図で洗い出した組織課題と個人課題をヒントにして、品質が上がるTo-Beストーリー(理想のあるべき姿)を描いてみましょう。次に、因果ループ図でTo-Beストーリーの原因と結果をつなぎます。
組織、事業、会社、人と人など関係性が複雑な課題に取り組む場合、俯瞰的な目線を鍛えるためにはシステムシンキングが便利です。本記事で利用する「因果ループ図」はシステムシンキングを表現する重要なツールのひとつです。
大切なことは、To-Beストーリーのループを描き、サイクルを回す回数を増やすことです。10回、20回と回していくことで、徐々にループのサイクルが容易になります。例えば、自転車を漕ぐときに最初は踏ん張ってペダルを踏む必要がありますが、あるポイントから自転車はペダルを漕がずとも勝手に前に進んでいきます。因果ループ図にも同様のイメージがあると言えるでしょう。
実際に因果ループ図のサイクルを回していくためには、具体的にどのようなアクションが必要になるでしょうか。ここでは先ほどのTo-Beストーリーを元に作成した因果ループ図に沿って、それぞれのステップでとるべき具体的なアクションを解説します。
「誰の、何を解決するデザインなのか」の課題の理解が間違っていると、アウトプットの内容にもズレが出てしまいます。個人とチームで課題の内容の認識を合わせ、理解に齟齬が生じないよう注意をしましょう。
また、このタイミングで課題のすり合わせに加えて、制作したデザインを通してユーザーに与えたい体験や成果物のイメージなど、具体案につながる内容もあわせた解決のイメージをするのが理想です。
課題設定の精度が上がると、適切なインプットが行えるようになります。インプットをより効率的に利用できるよう意識をしましょう。
適切なインプットができると、完成形をイメージした上で具体化する作業を進めることができます。また、手を動かす際には、最初からデザインツールなどで時間をかけてつくりはじめるのではなく、手書きのスケッチなどで全体像を描いてからスタートしてみることが重要です。全体像から徐々に細部のデザインへと移行する「不確実なものから明らかにする」進め方をすることで、プロジェクト初期段階での時間短縮につながります。
デザインの完成度の最後の10%を上げるのは、それまでの工程と比較しても時間がかかる作業になります。前項の 3.完成形をイメージできる と同様に、「不確実なものから明らかにする」進め方で完成度90%までの時間短縮を行いましょう。残りの時間で細部の精度を上げることで、完成度の高いアウトプットにすることができます。
完成度の高いアウトプットができると、当初設定していた課題とチームが描いた解決がつながり、制作したデザインについての言語化ができる状態になります。クライアントをはじめとするアウトプットを見た相手からの「なぜこのデザインなのか」「このように改善すべきなのでは?」といった質問にも、説得力のある裏付けで説明できるようになり、答えに窮することはなくなるはずです。
プロジェクト開始時の課題の理解と、チームが描いた解決がアウトプットとしてつながったものになると、個人やチームの中の経験・スキルと紐づいた成功体験として蓄積されます。次のプロジェクトでの新たなサイクルを回すために、しっかりと振り返りを行いましょう。
これまでご紹介した因果ループ図は、あくまでもチームで行うデザインの品質が上がらないよくある原因を元に例として作成したものです。実践する場合には、それぞれの状況に合わせてフィッシュボーン図で組織と個人の課題を整理し、品質が上がるTo-Beストーリーで因果ループ図を描いてみましょう。
どんなTo-Beストーリーで描いた因果ループ図でも、チームで行うデザインの品質向上のために不可欠となるのは「完成度90%までの時間短縮」と「効果的な振り返り会の実施」です。
アウトプットの細部の精度を上げる「粘る時間」をつくるために、完成度90%までの時間をできるだけ短くしましょう。デザインプロセスをより円滑に進めるためには、アウトプットのレビューを適切に行うことが重要です。特に、新人デザイナーを含むチームの場合、新人デザイナーのアウトプットを先輩デザイナーなど他のチームメンバーがデザインレビューを担当し、求めている品質まで引き上げる作業が発生します。
図はデザインの「品質」と「時間軸」の関係を表現したものです。4つのダイヤモンドはデザインプロセスを表し、デザイン制作過程を発散・収束のサイクルで表現しています。このようなサイクルや工程をデザイナーとレビュー側の双方で把握をすることで、「今はこの状態にいるのでここまではデザイナー自身にがんばってもらい、次の段階でレビューを入れよう」など、レビューの計画をデザインプロセスに効率的に立てることができます。
プロジェクト開始時にはキックオフ会、デザイン納品後には振り返り会を行いましょう。ひとつのプロジェクト内で案件の全体像を掴む場を2度設けることで、当初の予測と実際のギャップを可視化することができます。また、プロジェクトで使用したアジェンダはテンプレート化して蓄積し、過去のアウトプットの品質と比較ができるようにしましょう。
本記事では、チームで行うデザインの品質が上がらないよくある原因、理想のあるべき姿を実現する因果ループ図と各ステップでとるべき具体的なアクション、品質向上ポイントなどを解説しました。現在のデザインプロセスの組織課題と個人課題を洗い出し、To-Beストーリーのループのサイクルを回す回数を増やしていくことが、チームのデザイン品質の着実な向上につながるでしょう。これを機に、自分や自社内のチームのデザインプロセスをぜひ振り返ってみてください。